第15回 ずかんくんコラム
「ウミウシ」
はじめに
海には陸上の世界では考えられないような、強烈な魅力を放つ海洋生物が多く存在します。今回は、ダイバーの皆さんから絶大な人気を持つ「あの生物たち」がついにコラムに登場します。ある理由から、水族館でもなかなか出会うことが難しい生物なので、彼らに会うことができるのはダイバーの特権とも言えるでしょう。
とてもカラフルで、キラキラした姿をしているので、今回は彼らが棲む海を、宝石箱に例えます。題して!「海は宝石箱!キラキラ・ウミウシコレクション!」
皆さんの大好きなあのウミウシは出てくるでしょうか?わくわくしてみてください!
<海の牛?ウミウシってどんないきもの??>
ウミウシは簡単にいうと「貝殻から解放された巻貝の仲間」です。つまり軟体生物で、牛でも哺乳類ではありません。そして、「ウミウシ」の名前はあくまでその仲間たちの総称になります。
(子供のとき)
子供のころは、他の巻貝の子供と同じ形をしていて、貝殻を背負っています。
(大人になると)
大人になるときに、貝殻を脱ぎ捨てたり、体に吸収したりします。
<ウミウシにはどこで会えるの?>
ウミウシには世界各地の海の浅瀬などで見ることができます!
<ウミウシ体の特徴>
<どれくらいの種がみつかってる?>
日本近海から1400種以上見つかっています。
世界全体だと5000~6000種以上存在するといわれています。
<ウミウシは一途?!気難しいほどの食性>
ウミウシには肉食性の種もいれば草食性の種もいます。さらに食性もバラバラで、カイメン、イソギンチャク、ホヤ、クラゲ、海藻といったものなど、食事に多様性があります。
さらには、他のウミウシを食べる種も存在します。また、ウミウシの中には、カイメンしか食べないという一途な種も存在します。このような摂餌を「選択摂餌」といいます。
※摂餌(せつじ)・・・食べること
ウミウシの種により、選択摂餌があるために、水族館での飼育展示などが難しいというわけなのです。
<知られざるウミウシの驚きの秘技!>
ミノウミウシ類の仲間たちは、ヒドロ虫を主な餌としていますが、餌として食べるだけではなくヒドロ虫の刺胞を無傷のまま取り込み、ミノの先端にある刺胞嚢(しほうのう)へ蓄積します。そして、刺胞嚢の先端にある刺胞に何かが触れると、刺胞が毒を注入します。ミノウミウシ類は、刺胞を防御に利用しているのです。
「盗刺胞(とうしほう)」という技は、他の毒生物の毒を盗用、蓄積するのではなく毒の発射装置そのものを盗用するという点で、他の毒の盗用とは一線を画します。
~国立科学博物館 特別展「毒」公式図録 P101「盗用」より引用~
<ウミウシには毒はあるのか?>
ウミウシは、それぞれにカラフルな色合いをしています。これは、ウミウシが様々な色を身に着けることで外敵から防御することを選択したといえます。つまり、ウミウシの色は、近づくのは危険で食べない方がいいよ!とアピールして敵に警戒しているのです。
しかしこれが「毒」かというと表現が適切ではないかもしれません。
「毒の定義」というのは、対象の種に対しては生命活動に何らかの阻害をもたらす、いわゆる毒であリ、それ以外は養分であったりします。何でもないことも多いかもしれません。
カイメンには、魚類や捕食者に対して不味や生長阻害成分があるとされ、それをウミウシは摂取して濃縮します。例としてミゾレウミウシ・ブチウミウシ・ミカドウミウシなどがあげられます。
ウミウシたちは、捕食者などの天敵に対して、おいしくない成分を自分の体にたっぷりため込んでいるのです!
<海の中にピカチュウがいた!>
「ウデフリツノザヤウミウシ」
黄色い体に先端が黒い耳のようにみえる触角を持つ特徴をそのまま反映させた姿から「ピカチュウウミウシ」や「ピカチュウ」の愛称で呼ばれています。
ウミウシたちは海の中の生物でも群を抜いて人気ですが、「ピカチュウウミウシ」はその中でも、さらに別格の人気を博しています。
<貝殻を脱ぎ捨てて進化!あのクリオネとの関係>
ウミウシたちは、実は貝殻を脱ぎ捨てた裸の巻貝たちです。
貝殻を作るには大きなエネルギーが必要です。
貝殻は重く、ウミウシ自身を移動するのには苦労します。
いっそ脱ぎ捨ててしまおう!とウミウシたちは考えたわけです。
「クリオネ」(和名)ハダカカメガイ 体長3cm
「流氷の天使」「氷の妖精」とも呼ばれて大人気のクリオネ!水中を舞うように泳ぎます。クリオネも、ウミウシと同様で貝殻をもたない不思議な貝です。
巻貝の一種に分類されていますが、貝類最大の特徴である貝殻を持っていません。
しかしクリオネもウミウシもアメフラシも、巻貝の仲間で、軟体動物です。
<そして自由を手に入れたウミウシは、しまいには踊り!泳ぎだす!>
「ミカドウミウシ」(英名)Spanish dancer・スパニッシュダンサー
大きいもので体長は約60cmに達する大型種。
夜間にミカドウミウシは、体を波打たせてさながら赤いドレスを着てフラメンコを踊るダンサーのごとく泳ぎ移動します。
ミカドウミウシには、他のほとんどのウミウシが行うことができない、泳ぐ能力があります。
<おまけ①あなたの推しウミウシは入ってる?ずかんくんのウミウシランキング!>
1位・・・アオウミウシ
2位・・・ウデフリツノザヤウミウシ
3位・・・アオミノウミウシ
4位・・・ヒロウミウシ
5位・・・シンデレラウミウシ
6位・・・キャラメルウミウシ
7位・・・ミゾレウミウシ
8位・・・ゴマフビロードウミウシ
9位・・・シロウサギウミウシ
10位・・・イチゴミルクウミウシ
<おまけ①まだまだいる!おもしろいウミウシメンバーズ!>
・パンダツノウミウシ
・ボブサンウミウシ
・ユキヤマウミウシ
・ホホベニモウミウシ
・シモフリカメサンウミウシ
・ブチウミウシ
・クレープウミウシ
・マイチョコウミウシ
・モンジャウミウシ
・モザイクウミウシ
・インターネットウミウシ
・ハナデンシャ
・コンペイトウウミウシ
・オトヒメウミウシ
・カグヤヒメウミウシ
最後に
「キラキラ・ウミウシコレクション」はどうでしたか?
あなたの推しのウミウシは入っていましたか?
新し推しウミウシは見つかりましたか?
きっと、見た目も名前も面白いウミウシの虜になってしまったのではないでしょうか?
僕は長年、ウミウシを調べてはイラストを描いていますが、面白く魅力的なウミウシが山ほどいて、いまだに飽きることがありません。
ウミウシの大きな魅力の一つに、その「多様性」があげられます。
分断された河川域では、それぞれの河川水域が独立していて、異なる種同士も交わる機会が少ないため、種の分断化が進みやすい特性があります。
一方で海という空間は、基本つながった開けた空間なので河川ほど種が分断されにくいために、どちらかというと種分化が進みにくい特性があります。
ウミウシたちは、生活史の中で長い距離を動き回らないうえ、それぞれに食べるカイメンなどを変化させているため、非常に多くの種に分化し繁栄しています。
ウミウシの数の分だけ、魅力に溢れています。
ウミウシの種の多さから、豊かな海の「生物多様性」を感じてみるのもいいかもしれません。
(参考文献・引用書籍・WEB媒体)
・小学館図鑑NEO 水の生物(小学館)
・新版 ウミウシ1260種 特徴がひと目でわかる図解付き(誠文堂新光社)
・国立科学博物館特別展「毒」公式図録 (国立科学博物館)
(2024年7月)