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はじめまして!このたび『ダイビング指導機関NAUI宣伝隊長』に就任いたしました!海の生き物大好き!イラストを描くのが大好き!ずかんくんです!
広い海にはどんな生き物たちが暮らしているのか?『沢山知って、ダイビングをもっともっと楽しんじゃおう!』をテーマに、毎回登場する生き物を変えながらお話していきます!

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第19回 ずかんくんコラム 
「ザトウクジラ」

「ザトウクジラ」

はじめに

現代の海で最大級を誇るのは、どの生物でしょう?
それは、シロナガスクジラをはじめとする「ヒゲクジラ」の仲間たちです。
最大全長21メートル~26メートル、重さは90t~125tもあるシロナガスクジラは、現存する最大の動物種であるだけでなく、かつて地球上に存在した確認されている限りの恐竜や動物を含めても、あらゆる認知されている動物の中で最大の種です。
同じヒゲクジラの仲間であるザトウクジラも、シロナガスクジラまでとはいかないにしろやはりかなり大型で、13メートル~15メートル、重さ30t~40tを誇ります。
ヒゲクジラの仲間たちに比べて小型のイメージがあるハクジラの仲間であるマッコウクジラは、全長オスで全長15メートル~18メートル、重さ36t~58t、メスで全長11メートル~13メートル、重さ12t~18tにもなり、ひときわ大きいことで有名です。
海の中では、浮力に体が支えられるおかげで、海の中の生物は、陸上の生物に比べ体を大きくさせやすいのです。
そんな圧倒的な大きさを誇る鯨類たちに、もしもあなたが体一つで会いに行けるとしたら?
今回は国内ホエールウォッチングでは一番メジャーな種である「ザトウクジラ」を中心に生態など詳しく紹介していきたいと思います。

<日本国内でクジラに逢うことはできるのか??>

クジラに会いに行くホエールウォッチングで最も有名な場所は小笠原諸島です。
過去には捕鯨船の補給基地として開拓・定住がはじまった歴史もあり、クジラと密接な関係にあります。
商業捕鯨全面禁止後の1989年には、初めてホエールウォッチングが行われたということもあり、国内ホエールウォッチングの本場として、毎年多くの人々を魅了しています。

<日本国内でクジラに逢うことはできるのか??>

<ホエールウォッチングのシーズン>

ザトウクジラの来遊期間は毎年12月頃~5月頃。その中でも特に2月~4月がよく見られる時期です。マッコウクジラは通年で小笠原近海に生息していますが、よく見られるのは5月~11月で、島から10km程度沖合でのウッチングになります。

<船からのホエールウッチング>

海の中に入ることに慣れていないノンダイバーの方でもクジラを間近に感じられる船の上からのホエールウォッチングは、入門編としてとてもお勧めです。
現地ツアー会社が開催するホエールウッチングツアーに参加してみましょう。
半日コース(約3時間)ならザトウクジラ、1日コース(約7~8時間)ならマッコウクジラに出会えるかもしれません。
野生動物のため必ず遭遇できる保証はありませんが、比較的高い確率で出会うことができます。

<陸上からホエールウォッチングを試みる>

船酔いがひどい人にもクジラを見るチャンスはあります。
それは陸上から観察する方法です。父島ならウェザーステーション展望台、母島なら御幸之浜、鮫ヶ崎展望台が適しています。

<ホエールウォッチングでの観察見どころ>

「ブリーチング」
ときにクジラは水面から大きくジャンプすることがあります。
これをブリーチングといいはっきりとした行動理由は判明していないものの、体に付いた寄生虫を落としている、オスのクジラがメスのクジラに求愛をしている、水面をたたく音により仲間とコミュニケーションをとっているなど様々な理由があると考えられています。実は陸上観察でも、このブリーチング音は聞こえてくるほど大きな音なのです。

<これぞ真の海洋生物好き!海外の海で地上最大動物シロナガスクジラと泳ぐ!>

コラム冒頭で紹介した最大全長21メートル~26メートル、重さは90t~125tもあるシロナガスクジラと、なんと水中で一緒に泳ぐことが可能です!
場所はスリランカの海、シーズンは12月~3月で、特に確率が高いのは1月~2月です。
小型ボートをチャーターしてクジラを探しながら1回約4~5時間のクルーズ×2日が主な計画例です。クジラを発見後、状態を観察してクジラの行動を妨げないよう安全性を考慮しながら行います。スキューバダイビングではなくスキンダイビングでのアプローチになります。これは体一つで地球そのものを感じると言っていいほどの、圧倒的な体験だと思います。
運が良ければ近距離での水中撮影も可能ですが、シロナガスクジラは世界的に大変貴重な存在のため、無理に近づかずクジラを刺激しないスイムを心がけましょう。
そしてなによりも野生生物のクジラの世界にお邪魔する側として、クジラに敬意を持って臨みましょう。

<事前に学んで楽しさアップ!ザトウクジラの生態を紹介>

(ザトウクジラの外見の特徴)
  • ・ザトウクジラは「鯨偶蹄目・ヒゲクジラ亜目・ナガスクジラ科・ザトウクジラ属」に分類。
  • ・アゴと頭部に多数のコブ状突起があり、フジツボが付着していることもある。
  • ・下アゴの先端近くには肉質の隆起があり、体の前から3分の2くらいのコブの上に背ビレがある。
  • ・胸ビレが長い(体長の3分の1に達する)。
  • ・尾ビレは大きく、辺縁部はギザギザしている。
  • ・体色は濃灰色ないし黒で、喉の部分は白い。
  • ・畝(うね)は14~24条は幅広く、へそまで達する。
  • ・ヒゲ板は短く(0.7m未満)黒い。
  • ・剛毛はこげ茶色で、ヒゲ板は各側に270~400枚。
  • ・多くの海域で沿岸性。長距離の回遊をする。
  • ・2~10頭の群れを作る。
(ザトウクジラの名前の由来)

漢字で書くと「座頭鯨」です。盲人が琵琶(びわ)を背負った姿に似ていることに由来しているというが、諸説あります。

(ザトウクジラの英名)

ザトウクジラの英名は「Humpback Whale」です。「hump」はコブの意味で、これは上アゴと下アゴにあるコブのことではなく、水中に潜るときに背を丸める姿から由来しています。

(ザトウクジラの学名)

ザトウクジラの学名は「Megaptera novaeangliae」です。「Megaptera」はラテン語で「大きい翼」の意味があります。

(ザトウクジラの寿命)

65年生きるといわれています。77年という最高記録もあるようです。

(ザトウクジラの代表的な行動)

クジラはホエールウォッチングの際、水面で様々な行動を私たちに見せてくれます。
クジラが水面で行う行動には意味があり、それぞれの行動には名前があります。
このような行動の意味や名前などを知っていれば、ホエールウォッチングがさらに面白くなると思います。

①「ブリーチング」
豪快なジャンプで水しぶきをあげながら、水面から巨体が半分以上飛び出します。考えられる理由は様々ですが、実際は不明です。
②「ペダンクルアーチ」
クジラが潜水を始める間際に見られる行動です。背ビレがはっきり見え、最後のブロー(息継ぎ)に続き、水面高く体をアーチ状にしながら潜水を始めます。
③「フル-クアップ」
ザトウクジラが、深く海へ潜る前に尾ビレを高く上げる行動です。このとき、尾ビレの模様が見え、この模様で個体識別します。また、尾ビレの裏側を見せないときを、「フルークダウン」といいます。
ホエールウォッチングの際にフルークアップが決まると、歓声が起こります。
④「ブロー(潮吹き)」
いわゆる潮吹きで、息継ぎをしています。
ホエールウォッチングの際に、クジラを探すときはこの潮吹きを探します。
だいたい15~40秒の間に3~4回呼吸して再び潜ります。一度潜ると5~15分は潜り続けます。
⑤「スパイホップ」
垂直に体を持ち上げて、水面から顔だけ出すアクションです。他にもシャチやホホジロザメなども行う行動として知られています。ザトウクジラよりもコククジラがよく行うとされています。
⑥「ペックスラップ」
体を横向きにして、胸ビレを水面に叩きつけます。まるでクジラがバイバイと言ってくれているようです。
⑦「テールスラップ」
尾ビレの上下運動、尾ビレを高く持ち上げ激しく水面に叩きつけ、水面下から水面上に尾ビレを蹴り上げます。自分の場所を知らせるなど、他のクジラを威嚇するときに行います。

<ザトウクジラは回遊する>

ザトウクジラは世界中の海に生息していますが、1年中同じ海域で見られるわけではありません。
なぜならザトウクジラは季節によって異なる海域に移動するためです。このように移動することを「回遊」と呼びます。北太平洋で見られるザトウクジラは、冬の間に沖縄や小笠原、ハワイ、メキシコなどの暖かい海で交尾や出産・子育てを行います。春になるとロシアやアリューシャン、アラスカなどの冷たい海へ移動します。
夏の間にザトウクジラは沢山のエサを食べて丸々太り、秋になると再び暖かい海へ向かいます。
この間の移動は数千キロメートルにもおよびます。

<ザトウクジラの冬~暖かい海で子育て・出産~>

ザトウクジラは冬の間、暖かい海で交尾や出産、子育てをします。
沖縄近海では12月から徐々にその姿が確認され始め、2~3月に最盛期を迎えます。
時折、生まれたばかりと思われる仔クジラを連れた子育て中の母クジラを見ることもできます。そして、5月になるとザトウクジラの姿を見ることはほとんどなくなります。

<ザトウクジラの夏~冷たい海で食事~>

ザトウクジラは、春の訪れとともにロシアやアラスカ、アリューシャンなどの冷たい海へ回遊します。それは、夏になるとこれらの冷たい海でクジラのエサが大量に消費されるためです。

(ザトウクジラは何を食べる?)

主な主食は「オキアミ」です。
他にもイカナゴの仲間やニシンの仲間、タラの仲間やカラフトシシャモなども食べるようです。

<ザトウクジラはどうやって食事をする?>

ザトウクジラの口の腹側は「畝(うね)」と呼ばれる多数の溝があります。
畝(うね)を伸ばしながらエサを海水ごと口内に取り込み、口を閉じて畝(うね)を縮ませながら舌を使うことでクジラヒゲの隙間から海水だけを押し出してエサをこしとります。そうして口の中に残ったエサを食べていると考えられています。

<ザトウクジラは泡で狩りをする?!>

ザトウクジラは仲間と協力してエサをとることがあります。
「バブルネットフィーリング」と呼ばれる方法では、まず水中で餌になる生物の下に回り込み、鼻から泡を吐き出しながらグルグルと取り囲むように泳ぎます。網状になった泡に囲まれた生物は水面近くに密集し、そこを下から大口を開けて一気に海水ごと口に含みます。こうすることで一度に沢山のエサを食べることができます。

<ザトウクジラのオスは歌う!ロマンチックなザトウクジラの世界>

クジラの仲間のお話をしているので、カンが良い人は「あれ?クジラと言えばエコロケーションでは?」と疑問が湧くかもしれません。特にエコロケーションを巧みに利用するイルカなどは、確かにクジラの仲間に含まれますが、主にエコロケーション能力を使用するのは「ハクジラ」の仲間です。今回、紹介しているザトウクジラは「ヒゲクジラ」の仲間で、彼らはイルカやシャチたちのように頭部に「メロン」と呼ばれるエコロケーションの力を強めるような脂肪分は持ちません。
見た目にもザトウクジラの頭部はどちらかというと真っ平です。
でも、そのかわりにとっておきの能力とロマンチックな独自の生態を持っています。
それは「ソング」という能力です。
ザトウクジラは、短いターンの音をいくつか連ね、その連なりを繰り返し発するので「ソング」と呼ばれています。そして、実は歌を歌うのはオスのザトウクジラだけで、メスのザトウクジラは「ソング」を歌いません。なので、おそらく繁殖期にオスのクジラが、メスに歌を歌い求愛していると考えられています。冬の暖かい海では、時折ザトウクジラの鳴き声を聞くことがあります。ソングを歌うクジラは「シンガー」と呼ばれていて、長い時は数時間歌い続けることもあります。
実際このソングは交尾や出産、子育てが行われる暖かい海でしか聞くことができません。
このソングは3000kmも遠くまで届くといわれています。
このソングは毎年変化するそうです。繁殖期の初めのころには、前年と同じようなソングを歌っていた個体も、誰かが新しい歌を奏でるようになるとすぐに覚え、その繁殖海域のザトウクジラはみな同じソングを歌うようになり、こうして「流行歌」が誕生します。
新しい愛の歌が生まれ、愛する女性にそれを歌う。その成功例をみた、別の男性も新しい愛の歌を覚えて同じように意中の女性にその歌を披露する・・・なんて人間の世界もザトウクジラの世界も、男性から女性への愛の表現方法は、海の中も陸上もさほど変わらないのかもしれません。そう考えると、親近感を覚えとても面白く感じます。
3000km先まで届く愛の歌を歌い、食事や出産・子育ての際は、数千キロメートルも回遊する生活史も持っているザトウクジラですが、その圧倒的なスケールの生き様は畏敬の念を感じずにはいられません。

<私たち人間の生活がクジラに及ぼす影響>

海に住むイルカやクジラたちと陸上で生活する私たち人間との間には、何の関わりもないように思います。しかし、私たちの目の届かないところで、人間活動が影響を与えているのかもしれません。くれぐれもホエールウォッチングの際にビニールゴミが海に飛んでしまわないよう、あらかじめ持ち込まないぐらいの配慮が良いのかもしれません。

(最後に)

クジラたちは私たちと同じ「哺乳類」の仲間です。海と陸上で、生活する場所に違いはありますが、私たちの進化のルーツを辿ると、もとは海で誕生し陸上へ進出した歴史があります。一部の哺乳類の仲間は、その後、生活の場所を戻すように海へ帰っていきました。その仲間が、広大な海洋を悠々と回遊する現在のクジラの仲間なのです。水族館や海でクジラの仲間に出会う際に、彼らの「まばたき」や「声」を逃さないでください。そこに深い温かみを感じ、きっと私たちは種族を超えて多くのことを分かり合えると信じています。

・世界のクジラ・イルカ百科図鑑(河出書房新社)
・クジラ・イルカのなぞ99(偕成社)
・クジラのおなかからプラスチック(旬報社)
・小学館図鑑NEO 動物(小学館)
・ポプラディア大図鑑 動物(ポプラ社)
・学研の図鑑 Live 動物(Gakken)
・講談社の動く図鑑move 動物(講談社)
・TRAVEL ROAD 小笠原ツアー (webサイト)
・国立科学博物館 海棲哺乳類データベース 海棲哺乳類図鑑(webサイト)
・沖永良部島 むがむがダイビング HP(webサイト)
・ダイビングショップ「ディ-プブル-」HP (webサイト)
・国営沖縄記念公園 クジラの不思議~沖縄近海のザトウクジラ~ HP(webサイト)
・山と渓谷オンライン 連載・クジラの歌を聴け HP(webサイト)
・かもめの本棚 かもめアカデミー カモメ学習帳
「第2回 海獣の王、クジラのこと」HP(webサイト)
(2025年3月)